「日本企業だから勝てる」は幻想
One&Coが考える海外戦略とは
海外企業が日本市場に進出する際、「拠点の候補地」「法律や規制について」「優秀な人材の獲得」といった、マーケティング以前の課題に関する相談が多く寄せられます。これは、日本企業が海外市場に進出するケースでも同じです。ハイブリッドマーケティングでは、高い専門性を持つパートナー企業や専門家ネットワークを活用し、簡単には解決できないこれらの課題を包括的に支援する「グローバルエコシステム」を構築しています。
シンガポールと台湾に拠点を持つ「One&Co」は、各種企業や行政、スタートアップなどがつながり、イノベーションを誘発するプラットフォームであり、ハイブリッドマーケティングが信頼するパートナー企業の一つです。同施設のゼネラルマネージャーであり、PRストラテジストの伊藤隆彦氏を訪ね、事業内容、東南アジアでビジネス展開する際の心構えなど、お話を伺いました。
伊藤隆彦 氏
One&Co シンガポールゼネラルマネージャー、PRストラテジスト
さまざまな国籍の企業がつながり新たなビジネスの種を生み出す
──最初に、One&Coについて教えてください。
伊藤隆彦 氏(以下、伊藤) 2019年8月に設立し、もうすぐ丸5年になります。シンガポールビジネスの中心地にあり、会員数は300弱。8割が日系企業で、残りの2割がローカル企業やその他の国籍の企業です。
──日系企業が多いということは、ローカルの企業との橋渡し的な役割を担っているのでしょうか?
伊藤 はい。日本に興味を持つ東南アジアの企業をご紹介することがよくあります。また、日本からシンガポールに来たばかりの企業には、One&Coにご相談いただければ、似たような課題やストーリーを持つ企業とつなぐことが可能です。彼らは開拓時の情報や、アプローチすべき人などをシェアしてくれるはずです。
──One&Coでは、具体的にどのようなことをされるのでしょうか?
伊藤 私たちは、「マイナスイチをゼロにする」ことを全て行っています。日本企業がシンガポールで事業をスタートするとき、ゼロからではなく、マイナスからのスタートだと認識していただきたいのです。ローカル企業と同じ土俵に立ってビジネスの話ができるようになるまで、意識を変えることが重要です。
──伊藤さんはどのような仕事をされていますか?
伊藤 最近、私の肩書を「オーケストレーター」と表現するようにしています。オーケストラって、最初に音合わせをしますが、ビジネスも同じです。さまざまな楽器演奏者が自分勝手に音を鳴らしてもハーモニーは生まれません。その不協和音も面白いのですが(笑)、指揮者がリズムを取ることで、次第に美しいハーモニーが生まれていきます。
One&Coのコネクションや知識、リソースを活用し、会員同士がコミュニケーションを取りながら、美しいハーモニーが生まれる環境をつくり出していくことが私たちの仕事です。そこに対価は求めておらず、次のビジネスにつながることが私たちの喜びなのです。
大切なのは、日本人の意識改革
──日本で若いスタートアップのメンターをしていると、日本市場だけでなく、最初からグローバルを視野に入れ、事業を進める方たちが増えている印象を受けます。
伊藤 私もそのような方たちを全力でサポートしたいのですが、厳しいことを言うと、日本と世界の状況を正しく認識しない限り、99.9%負けると思います。普段から英語や中国語でリサーチを行い、現地の情報源に当たっていたり、LinkedInなどでグローバルのビジネスとつながっていたりするなら別ですが、日本で得た情報をもとに考えた課題やアイデアは、世界では通用しません。
ファンディングチームについても、CEOは日本人でも構いませんが、CTOはローカルの人材を入れるなどの工夫が必要です。シンガポールでは、地元の創業者に、ベトナム出身の共同創業者、CTOはイギリス出身といった多国籍のスタートアップが多く見られます。
日本で最適化されたビジネスをそのまま海外で展開するという考えは通用しません。最初から、グローバルで通用するポテンシャルがあり、まずは日本で足腰を固めてから海外に進出するという気概でないと難しいと思います。マーケティングをする際も、ローカルのペインポイントを理解できる人材がいるかが重要です。
──日本での成功体験は通用しないということですね。シンガポールの日本人コミュニティについて教えてください。
伊藤 日本から赴任してきた方は、現地に知り合いがいないことが多く、また、日本のメディアなどで活躍されていても、こちらでは無名なことも多いため、簡単にアポが取れず、現地の人と会うことすら難しいのが現状です。日本の本社は現地で人脈を広げるようにと言いますが、実際にそれは簡単なことではありません。そのため、いい意味で日本人同士が協力し合うことが大切です。
「日本人村」というと、ネガティブにとらえる方もいるかもしれませんが、華僑やインドの印僑と同じニュアンスで考えてみてはどうでしょうか。華僑や印僑は既にしっかりとした土台ができており、さまざまな業界に入り込んでいます。コミュニティが整っているため、何か困りごとがあれば、すぐに人を紹介してもらえ、ビジネスチャンスが生まれています。
カオスだから生み出せる新しい価値
──One&Coのウェブサイトには、「イノベーションを誘発し、社会へのインパクトを起こすことまでサポートする」とあります。
伊藤 「イノベーションとは、どういう意味ですか?」と聞かれたら、皆さんはどのように答えますか?私たちは、「出し抜く」ことがイノベーションだと考えています。別の言い方をすれば、「新たな意味を発明する」こと。「追い抜く」はいずれ追い抜かされますが、「出し抜く」ことは簡単にはまねされません。
日本企業は順目の出会いだと、どうしても受発注という縦の関係になりやすく、業者扱いする傾向にあります。しかし、非順目な出会い方をすることで、下請けではなく、パートナーになれるのです。そのためには、普段出会わない人と出会える「カオス」な状況が必要です。One&Coでは、さまざまな業種の人々が集まり、思いもよらなかった人とつながることができます。
──日本では当たり前と思っていた考え方を変える必要があるのですね。
伊藤 日本と、東南アジアや世界のビジネスのスタイルを、はしごとジャングルジムに例えることができます。日本では、投資家や株主をはじめ、みんなで一緒にはしごを支えながらビジネスを進めるイメージがあります。ゴールにたどり着けるのは一部の人だけで、下で支えきれずにはしごが倒れることもあります。もしゴールが間違っていたら、はしごを支えながら、右へ左へと移動しなければなりません。
一方で、ジャングルジムは、どこからでも登ることができます。落ちてケガをするかもしれませんが、どこかの棒に捕まり、再び登り直すことができます。横を見ると、華僑や印僑といったコミュニティがあり、支え合う仲間がいます。頂上に着いても、横移動は簡単。私は、このような世界の方が強いと思います。
──シンガポールをはじめ、東南アジア市場への進出を検討している日本企業へメッセージをお願いします。
伊藤 インターネットで調べても限界があります。例えれば、日本からモンゴルへ進出するとなり、日本語でモンゴルについて検索しても情報は限られていて、結局、どこに拠点を構えるべきか分かりません。それは、シンガポールや東南アジアでも同じです。現地に来なければ分からないことが、たくさんあります。言いかえれば、現地に来て活動を始めれば、チャンスがあるということです。
そのためには、現地で信頼できるパートナーやネットワークを持つことが重要です。ハイブリッドマーケティング単体ではカバーしきれない部分を、私たちOne&Coがサポートさせていただきます。厳しいことを言いましたが、しっかりとお手伝いさせていただきますので、気軽にご相談ください。
One&Co
シンガポール、CBDエリアにあるコワーキングスペース。コミュニティコンダクターが常駐し、イベントを定期定期に開催し、企業のビジネスをつなぎ、ネットワーク構築やコミュニティの参加をサポート。シンガポールでの会社設立支援、スタートアップ企業進出支援なども行い、日本とシンガポールのビジネスをつなぐサービスを提供している。